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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)206号 判決 1993年12月21日

新潟県新潟市京王3丁目1番15号

原告

信田勇吉

訴訟代理人弁理士

庄司建治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

関口博

指定代理人

中村友之

指定代理人

山田忠夫

指定代理人

唐沢勇吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第12120号事件について平成4年8月5日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年2月4日、名称を「パチンコ玉式スロット型遊技機」とする発明(以下「本願発明」という)について特許出願をしたが、平成3年5月22日、拒絶査定を受けたので、同年6月19日、審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成3年審判第12120号として審理したが、平成4年8月5日、「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決をなした。

2  本願発明の要旨

絵柄リールを起動可能な状態にセット後、絵柄リールの起動レバーを操作して絵柄確認窓の内側に装着されている複数(通常3本)の絵柄リールを回転し、回転中の絵柄リールに対応する絵柄リール停止スイッチを押して停止させ、複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄リールの絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ当りとし、他方複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄が遊技法説明パネルに指定の配置に並ばなかったときには当りとしない機構のスロット型遊技機において、該遊技機に装着されている玉受け容器に適当な数のパチンコ玉を投入して遊技スタート用スイッチを遊技者が押して玉受け容器内に投入されているパチンコ玉の中、予め定められた個数のパチンコ玉だけ玉排出用パイプ内より排出せしめ、絵柄リールを起動可能な状態にセット後、絵柄リールの起動レバーを操作して絵柄確認窓の内側に装着されている複数(通常3本)の絵柄リールを回転し、回転中の絵柄リールに対応する絵柄リール停止スイッチを押して停止させ、複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄リールの絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ所定数のパチンコ玉が当り玉としてパチンコ機側の玉補給装置と接続している玉補給パイプを介して前記玉受け容器へ払い出され、他方複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並ばなかったときには当り玉が払い出されないと共に、既存のパチンコ機に装着されている玉補給装置、玉揚送装置等の付属設備等をそのまゝ併用しながら遊技機を動作せしめたことを特徴としたパチンコ玉式スロット型遊技機(別紙図面1参照)。

3  審決の理由

審決の理由は、別紙平成3年審判第12120号審決書写し理由欄記載のとおりである(審決摘示の相違点(1)の趣旨は、被告主張のとおり、引用例記載のスロットマシンは遊技スタート用スイッチを複数設けて複数種類のゲームを同一の遊技機で選択的に行なえるようにしているのに対し本願発明では、遊技スタート用スイッチを一つだけ設けて単一のゲームのみ行なえるようにしている点で相違するというものである。)。(引用例記載の発明については、別紙図面2参照。)

4  審決を取り消すべき事由

(1)  審決の理由中、本願発明の要旨、引用例の記載、本願発明と引用例記載の発明との対比(両者の一致点及び相違点)、本願発明の遊技機の絵柄リールが引用例記載のスロットマシンの回転ドラムに相当すること及び相違点(3)についての判断は認めるが、相違点(1)及び(2)に対する判断は争う。

(2)  審決は下記のとおり、その認定判断を誤り、本願発明の進歩性を否定したもので、違法であるから、取り消されるべきである。

<1> 相違点(1)の判断の誤り(取消事由1)

引用例記載のスロットマシンが賭点設定ボタン(5)を複数設け、複数種類のゲームを選択的に行なえるようにした装置であるのに対し、本願発明の遊技機は一個の遊技スタート用スイッチを設けて単一のゲームを行なう装置である。本願発明はこの構成を採択することにより、引用例記載のスロットマシンの下記のような構成を省略できた。すなわち、引用例記載のスロットマシンは、下部に配設の賭け点を設定する賭け点設定ボタン(5)の例えば1点、2点、3点、4点、5点、10点、15点、取消Cのように幾種類のうちの一つを遊技者が選択し、選択するとボタンをランプ点灯させたり、さらにスロットマシンの上部には数字表示器(11)を配設し、遊技者が投入した投入数、賞球として払い出された払出数、差引の勝ち点を数字で表示したり、又は表示機周辺に配列した表示ランプにより、投入数に応じて個数をランプ点灯させ、あるいは入賞時に全ランプを点滅させる構成となっている。これに対して、本願発明は、かかる構成を有しない。本願発明の構成は、一個の遊技スタート用スイッチを一回押すことによって、予め定められている個数のパチンコ玉を排出用パイプより排出せしめるという、きわめて簡略化した構成となっているのである。そのため、本願発明はコストを著し節約できるという顕著な作用効果を有している。

引用例には、スロットマシンのゲーム開始手段である「パチンコ用鋼球の投入によりスタートレバー(実施例の用語ではスタートボタン又は起動ボタン)が有効に作動して上記回転ドラムを回転駆動する」機構が開示されており、一見して本願発明の「遊技スタート用スイッチ」のように「一つのスタートレバー」を操作することも包含されているように考えられるが、引用例記載のスロットマシンは、その明細書の「設定ボタン(5)のいずれを選択すると投入口ソレノイド(21)が作動して投入口を開き、同時に投入計数器(22)が玉の通過数を計数し、選択された設定数に達すると投入口が閉じる。」(甲第4号証2頁右下欄14行ないし18行)旨の記載によれば、設定ボタン(5)のいずれかを選択して玉の計数を作動させるという動作がなされないと、ゲーム開始がなされないことが絶対的要件となっているものである。してみると、引用例には、「一個の遊技スタート用スイッチ」を設け、所定数のパチンコ玉だけを排出用パイプより排出せしめるようにする本願発明の構成は、開示されておらず、機構の簡略化を図り、コストを著し節約せしめるという格別の効果が存している以上、本願発明の上記の構成に想到することに困難性があるものといえる。

しかるに、審決は、本願発明が、引用例記載のスロットマシンの前記のような複数の設定ボタンに伴う構成を全く不要となし、その構成を著しく簡素化した相違点を看過した結果、相違点(1)についてのその格別な効果を看過し、その進歩性についての判断を誤まった。

<2> 相違点(2)の判断の誤り(取消事由2)

審決は、相違点(2)の判断において、装置の簡素化を図ったことに、何らの困難性も認められないとしたが、ホール内に設置される、数十台、百台の多量の遊技機の各台に還元機を一個宛装着せしめると、きわめて高額となるものを、本願発明の遊技機は、一切不要にし、ホールの設備費の著減をはかったものである。また、本願発明においては、遊技機に還元機を装着しなくとも、玉の補給は補給パイプ(1)を使用すれば十分機能するものである。

審決は、以上のような著しい優れた本願発明の作用効果を看過している。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。審決摘示の相違点(1)の趣旨は、引用例記載のスロットマシンは、遊技スタート用スイッチを複数設けて複数種類のゲームを同一の遊技機で選択的に行なえるようにしているのに対し、本願発明では、遊技スタート用スイッチを一つだけ設けて単一のゲームのみ行なえるようにしている点で相違するというものである。

2(1)  取消事由1について

パチンコ機やスロットマシンのような遊技機における付加的部品や要素は、それらを設けることにより、該遊技機に付加的機能を設けるためのものであり、したがって、そのような目的のためにそれらを設けた遊技機を見聞した当業者であれば、そのような目的を重視しない場合にそれら部品や要素を省略した該付加的機能のない遊技機を想起できるのが一般的である。

したがって、該付加的機能をなくすることが困難であり、あるいは該付加的機能が必要不可欠であるなどの特段の事情がなければ、付加的機能のないことをもって、相違点ということはできない。

しかして、引用例記載のスロットマシンは、遊技スタート用スイッチを「複数」設けた目的が、ゲームの種類を豊富にして遊技者の興趣を高めることにあることが、当業者であれば容易に窺えるものであり、このことは、上記スロットマシンにおいて、「複数」の遊技スタート用スイッチを簡略化して「1つ」のみにすることが困難であり、かつ、「複数」とすることが必要不可欠のことであると解すべき特段の事情にはならない。

かえって、引用例記載のスロットマシンは、そもそも遊技スタート用スイッチを「複数」設けるか「1つ」設けるかについては重要視していない。

(2)  取消事由2について

引用例記載のスロットマシンにおいても、還元機を設けることは重要視されておらず、また、類似の遊技機であるパチンコ機において、還元機を設けないことが一般的である(乙第1ないし第3号証)。さらに、ある機能を省けば、その機能と関連する部分の部品や要素が不要又は簡略化され、製造コストが節約できることは自明の理であって、かかる効果は格別のものとは到底いえない。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由)は当事者間に争いがない。

(2)  審決の理由中、引用例の記載事項、本願発明と引用例との対比(両者の一致点及び相違点。相違点(1)については、その趣旨が、引用例記載のスロットマシンは、遊技スタート用スイッチを複数設けて複数種類のゲームを同一の遊技機で選択的に行なえるようにしているのに対し、本願発明では、遊技スタート用スイッチを一つだけ設けて単一のゲームのみ行なえるようにしている点で相違するというものである。)、本願発明の遊技機の絵柄リールが引用例記載のスロットマシンの回転ドラムに相当すること、及び、相違点(3)についての判断は、いずれも当事者間に争いはない。

2(1)  取消事由1について

相違点(1)が引用例記載のスロットマシンが遊技スタート用スイッチ(設定ボタン)を複数設けて複数種類のゲームを同一の遊技機で選択的に行なえるようにした装置であるのに対し、本願発明の遊技機が一個の遊技スタート用スイッチを設けて単一のゲームのみを行なう装置である点にあることは当事者間に争いがない。

また、前記当事者間に争いのない両者の一致する構成のうち、ゲーム開始に関する部分は、「遊技機に装着されている玉受け容器に適当な数のパチンコ玉を投入して遊技スタート用スイッチ(設定ボタン)を遊技者が押して玉受け容器内に投入されているパチンコ玉の中、予め定められた個数のパチンコ玉だけ排出せしめ、絵柄リール(回転ドラム)を起動可能な状態にセット後、絵柄リール(回転ドラム)の起動レバー(スタートボタン)を操作して絵柄確認窓の内側に装着されている3本の絵柄リールを回転」させる点である。そこで、この相違点及び一致点について検討すると、成立に争いのない甲第4号証(特開昭57-131469号公報、引用例)によれば、引用例には、「設定ボタン(5)のいずれを選択すると投入口ソレノイド(21)が作動して投入口を開き、同時に投入計数器(22)が玉の通過数を計数し、選択された設定数に達すると投入口が閉じる。このとき、玉受皿(7)に玉のあるときは自動的に流下し、玉のないときには遊戯者が玉受皿(7)に投入すればそれが投入口へ流下する。」(2頁右下欄14行ないし20行)旨の記載「このようにして投入口(9)が閉じると、賭け点が確定するから、ゲームの種類が定まり、…。賭け点により定まるゲームの種類は、例えば第5図に示すように予め定められている。」(3頁左上欄15行ないし20行)旨の記載及び「起動ボタン(6)が押されるとゲームの種類に応じて回転ドラム(1A)(1B)(1C)の1個又は複数個が回転し、」(3頁右上欄7行ないし9)旨の記載があることが認められ、上記記載によれば、引用例記載のスロットマシンは、遊技者が賭け点設定ボタン(遊技スタート用スイッチ)のいずれを押しても、玉受皿に投入されているパチンコ玉のうち予め定められた個数のパチンコ玉だけ投入口に投入されて、投入口が閉じ、選択されたゲームの種類に応じた回転ドラム(絵柄リール)が起動可能な状態にセットされ、スタートボタン(起動レバー)によって選択されたゲームが開始される構成となっていることが認められる。したがって、同スロットマシンでは、複数の賭け点設定ボタン(遊技スタート用スイッチ)のうち、一個を選択し、それに応じて予め定められた個数のパチンコ玉が投入(排出)されることにより、回転ドラム(絵柄リール)が起動可能な状態にセットされ、ゲーム開始可能の状態になり、起動(スタート)ボタン(起動レバー)により回転ドラム(絵柄リール)を回転させ、選択されたゲームが開始されるものであることが認められる。これに対して、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明の遊技機では、遊技スタート用スイッチ(設定ボタン)を押し、それに応じて予め定められた個数のパチンコ玉が排出されることにより、絵柄リール(回転ドラム)が起動可能な状態にセットされ、起動レバー(スタートボタン)の操作によって、絵柄リール(回転ドラム)を回転させゲームが開始されるものであることが認められる。

そして、ゲームの進行及び終了に関する部分である「(絵柄リール((回転ドラム))の起動レバー((スタートボタン))を操作して絵柄確認窓の内側に装着されている3本の絵柄リールを回転し)、回転中の絵柄リール(回転ドラム)に対応する絵柄リール停止スイッチ(ストップボタン)を押して停止させ、複数の絵柄リール(回転ドラム)の停止時において、夫々の絵柄リール(回転ドラム)の絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ所定数のパチンコ玉が当り玉として前記玉受け容器へ払い出され、夫々の絵柄リール(回転ドラム)の絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並ばなかったときには当り玉が払い出されない」点で、両者が一致するものであることは当事者間に争いがない。

以上の検討によれば、本願発明の構成のうち、ゲームの開始、進行及び終了に関する部分については、本願発明は上記引用例記載の構成のうち、複数種類のゲームから一つの種類のゲームを行なう構成を取り出して、単一のゲームを行なう構成とし、かつ、それに付随する機器の構成すなわち複数の賭け点設定ボタンの選択及びそれに応じたパチンコ玉の投入等の構成を簡素化したにすぎないものと認められる。

ところで、様々な機器に付加価値を高めることを目的として基本的機能以外に複数の付加的機能を与え、あるいはこれとは逆に、付加的機能を与えたことによって操作が複雑になることや価格が高くなるという欠点が生ずることに着目し、必要に応じて付加的機能の一部を省くことは広く行なわれていることであり、特段の事情がない限り、そのような着想自体新規なものと認めることはできない。

したがって、引用例記載のスロットマシンの構成を簡素化して単一種類のゲームを行なう機能にすることに想到することが、当業者にとって困難であるという特段の事情がない限り、本願発明の単一種類のゲームを行ない得る構成とすることに想到することが当業者にとって格別困難であったとは認められない。先ず、一つの遊技機で複数種類のゲームを行なわせるということは、客の興趣を高めることになるが、これを一種類のゲームしか行なえないものとすること自体に格別の進歩性を認めることはできない。そして、本願発明を単一種類のゲームを行なう機能にすることによって簡略化された機能として原告が主張する引用例記載のスロットマシンの「配設の賭け点を設定する賭け点設定ボタン(5)の例えば1点、2点、3点、4点、5点、10点、15点、取消Cのように幾種類のうちの一つを遊技者が選択し、選択するとボタンをランプ点灯させたり、さらにスロットマシンの上部には数字表示器(11)を配設し、遊技者が投入した投入数、賞球として払い出された払出数、差引の勝ち点を数字で表示したり、又は表示機周辺に配列した表示ランプにより、投入数に応じて個数をランプ点灯させ、あるいは入賞時に全ランプを点滅させる構成」あるいは「設定ボタン(5)のいずれを選択すると投入口ソレノイド(21)が作動して投入口を開き、同時に投入計数器(22)が玉の通過数を計数し、選択された設定数に達すると投入口が閉じる。」構成は、いずれも、単一種類のゲームを行なう機能のみに簡略化すれば不要になることは当業者であれば、容易に予測できるものである。そして、本願発明において、かかる構成にすることが技術的に困難であったという特段の事情も認められない。そして、ある装置の構成を簡素化すれば、製造コストを節約できることは、当業者であれば容易に予測できることであり、格別の効果とは認められない。

したがって、相違点(1)についての審決の判断は相当である。

(2)  取消事由2について

前掲甲第4号証によれば、引用例記載のスロットマシンでは、投入されたパチンコ玉を個々のスロットマシンに備え付けられた玉溜めに溜め、賞球タンクの保有量が所定数よりも少なくなると玉溜めから還元機によりパチンコ玉が還元される(2頁右上欄18行ないし左下欄5行)構成であるのに対し、本願発明には、かかる構成はない。本願発明の遊技機においても、玉の排出及び補給について何らかの装置が必要であると解されるところ、かかる装置は本願発明の構成要件とはなっていないが、成立に争いのない甲第2号証(本願発明の願書添付の明細書)の第2図及び同第8号証(平成3年6月19日付け手続補正書、6頁11行ないし13行、9頁1行ないし3行)によれば、本願発明の遊技機では、玉の排出及び補給は、排出用パイプ及び補給パイプを従来のパチンコ機用付属設備である玉の排出あるいは補給をなす装置に連結することにより行なっているものと認められる。そして、成立に争いのない乙第1ないし第3号証(実公昭39-9150号公報、実公昭39-19063号公報、特公昭39-14766号公報)によれば、パチンコ機において、パチンコ玉の排出及び補給の装置を個々のパチンコ機に設けずに、数台のパチンコ機に対して共通の排出及び補給の装置を設けることが、本願発明の出願前、周知であったことが認められる。

したがって、パチンコホールに設置された多量の遊技機の個々の遊技機に備えつけられた玉溜め、賞球タンク及び両者を接続する還元機を廃止し、共通の玉の排出及び補給のための装置を設ける構成にすることは、当業者であれば容易に想到することであり、かつ、かかる構成の簡略化による設備費の軽減は、当業者であれば易に予測できることであり、格別の効果とは認められない。

よって、引用例記載のスロットマシンの玉溜め、還元機などを省略して、排出用パイプ及び補給パイプによって、玉の排出及び補給をなす装置に連結して、装置の簡略化を図ることに、何の困難性も認められない。

したがって、相違点(2)についての審決の判断は相当である。

(3)  以上のとおり、原告主張の審決の取消事由はいずれも理由がなく、審決には原告主張の違法事由はない。

3  よって、本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面 1

<省略>

別紙図面 2

<省略>

平成3年審判第12120号

審決

新潟県新潟市万代1丁目1番4号

請求人 信田勇吉

東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル4階

代理人弁理士 庄司建治

昭和59年特許願第19061号「パチンコ玉式スロット型遊技機」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年8月26日出願公開、特開昭60-163677)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

(手続の経緯・本願発明の要旨)

本願は、昭和59年2月4日の出願であって、その発明の要旨は、平成3年1月17日付、および平成3年6月19日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものと認める。

「絵柄リールを起動可能な状態にセット後、絵柄リールの起動レバーを操作して絵柄確認窓の内側に装着されている複数(通常3本)の絵柄リールを回転し、回転中の絵柄リールに対応する絵柄リール停止スイッチを押して停止させ、複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄リールの絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ当りとし、他方複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄が遊技法説明パネルに指定の配置に並ばなかったときには当りとしない機構のスロット型遊技機において、該遊技機に装着されている玉受け容器に適当な数のパチンコ玉を投入して遊技スタート用スイッチを遊技者が押して玉受け容器内に投入されているパチンコ玉の中、予め定あられた個数のパチンコ玉だけ玉排出用パイプ内より排出せしめ、絵柄リールを起動可能な状態にセット後、絵柄リールの起動レバーを操作して絵柄確認窓の内側に装着されている複数(通常3本)の絵柄リールを回転し、回転中の絵柄リールに対応する絵柄リール停止スイッチを押して停止させ、複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄リールの絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ所定数のパチンコ玉が当り玉としてパチンコ機側の玉補給装置と接続している玉補給パイプを介して前記玉受け容器へ払い出され、他方複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並ばなかったときには当り玉が払い出されないと共に、既存のパチンコ機に装着されている玉補給装置、玉揚送装置等の付属設備等をそのまゝ併用しながら遊技機を動作せしめたことを特徴としたパチンコ玉式スロット型遊技機。」

(引用例)

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された特開昭57-131469号公報(以下、「引用例」という)には、

「複数の設定ボタン(5)のいずれかを選択して押すと、玉受け容器(7)にあるパチンコ玉が各設定ボタン(5)に対応して予め定められた数だけ盤裏面の玉(20)に排出されるとともに、3本の絵柄(1A)(1B)(1C)が起動可能な状態にセットされ、スタートボタン(6)を押すと各絵柄リール(1A)(1B)(1C)が回転し、各絵柄リール(1A)(1B)(1C)に対応する各ストップボタン(4A)(4B)(4C)を押して各絵柄リール(1A)(1B)(1C)の回転を停止させ、その停止状態に応じて所定のルールに従いパチンコ玉を盤裏面の賞球タンク(15)から玉受け容器(7)に払い出すように構成してあり、賞球タンク(15)には、遊戯台上方に設置した配給樋(25)から補給樋(27)を介してパチンコ玉が適宜補充され、玉溜め(20)と賞球タンク(15)とを還元機(23)で連続させて玉溜め(20)内に排出されたパチンコ玉を賞球タンク(15)に適宜還元できるようにし、玉溜め(20)内のパチンコ玉が所定量を超えたときに該パチンコ玉を遊戯台下方に設置した回収路(24)に流すようにした、パチンコ玉を使用するスロットマシン」が記載されており、このスロットマシンは「従前から稼働しているパチンコ遊戯店内のパチンコ球補球装置、玉の回収路等の付属設備を廃棄することなく有効に利用して、パチンコ遊戯機と据え替えることができる」スロットマシンであることが記載されている。

(本願発明と引用例との対比)

本願発明と引用例に記載されたものとを対比すると、引用例に記載された「スタートボタン」「ストップボタン」「設定ボタン」「配給樋」「補給樋」は、それぞれ本願発明の「起動レバー」「絵柄リール停止スイッチ」「遊技スタート用スイッチ」「玉補給装置」「玉補給パイプ」に相当する。そして、スロット型遊技機において、当りの配置の種類や、各配置毎の払い出し数などを説明した「遊技法説明パネル」が設けられていることは広く知られており、引用例記載のものにも当然このような「遊技法説明パネル」が設けられている。したがって、両者は、

「絵柄リールを起動可能な状態にセット後、絵柄リールの起動レバーを操作して絵柄確認窓の内側に装着されている3本の絵柄リールを回転し、回転中の絵柄リールに対応する絵柄リール停止スイッチを押して停止させ、複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄リールの絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ当りとし、他方複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄が遊技法説明パネルに指定の配置に並ばなかったときには当りとしない機構のスロット型遊技機において、該遊技機に装着されている玉受け容器に適当な数のパチンコ玉を投入して遊技スタート用スイッチを遊技者が押して玉受け容器内に投入されているパチンコ玉の中、予め定められた個数のパチンコ玉だけ排出せしめ、絵柄リールを起動可能な状態にセット後、絵柄リールの起動レバーを操作して絵柄確認窓の内側に装着されている3本の絵柄リールを回転し、回転中の絵柄リールに対応する絵柄リール停止スイッチを押して停止させ、複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄リールの絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並んだときだけ所定数のパチンコ玉が当り玉として前記玉受け容器へ払い出され、他方複数の絵柄リールの停止時において、夫々の絵柄が遊技法説明パネルに指定された配置に並ばなかったときには当り玉が払い出ざれないことを特徴としたパチンコ玉式スロット型遊技機。」である点で一致する。

そして、本願発明と引用例記載のものとは以下の(1)~(3)の各点で、相違する。

(1)引用例記載のものには、「遊技スタート用スイッチ」が複数設けられているのに対し、本願発明では1つだけ設けられている点。

(2)引用例記載のものには玉溜め、賞球タンク、及び両者を連続させる還元機が設けられているのに対し、本願発明にはこれらに相当するものがない点。

(3)引用例記載のスロット型遊技機は「従前から稼働しているパチンコ遊戯店内のパチンコ球補球装置、玉の回収路等の付属設備を廃棄することなく有効に利用して、パチンコ遊戯機と据え替えることができる」ものであるのに対し、本願発明のものは「既存のパチンコ機に装着されている玉補給装置、玉揚送装置等の付属設備等をそのまゝ併用しながら遊技機を作動せしめる」ものである点。

(当審の判断)

そこで、前記相違点について検討する。

相違点(1)についてみると、「遊技スタート用スイッチ」を複数設けて複数種類のゲームを同一の遊技機で選択的に行えるようにするか、1つだけ設けて単一のゲームのみ行えるようにして装置の簡素化を図るかは、当業者が容易に適宜なし得る程度の選択事項にすきない。

また、相違点(2)についてみると、玉溜め、還元機などを設けないことは、パチンコ機において一般的に行われていることであり、上記相違点(1)と同様にこれらを省略して装置の簡素化を図ったことに、何の困難性も認められず、当業者が適宜なし得る程度の設計変更にすぎない。

さらに、相違点(3)についてみると、引用例に「従前から稼働しているパチンコ遊戯店内のパチンコ球補球装置、玉の回収路等の付属設備を廃棄することなく有効に利用して、パチンコ遊戯機と据え替える」ための技術的事項が具体的に開示されている以上、本願発明の「既存のパチンコ機に装着されている玉補給装置、玉揚送装置等の付属設備等をそのまゝ併用しながら遊技機を動作せしめる」程度のことには、何の困難性も認あられず、当業者が適宜なし得る程度の設計変更にすぎない。

そして、本願発明において、これらの設計変更を行ったことによる作用効果も、別段著しいものがあるとは認められない。

(むすび)

したがって、本願発明は上記引用例に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年8月5日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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